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         ウスバシロチョウの産卵


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産卵後五日ほど経過した状態。

昆虫の表情に三度目のウスバシロチョウの登場です。二度目の前回は、ぐっとくだけて交尾の様子が中心でした。今回のねらいとして、産卵の様子を撮影したいなという願いがありました。今年は例年と違い、ウスバシロチョウが飛び始めた五月の初めは天候が良くなく、風の強い日が続いていました。

ネット資料でウスバシロチョウの産卵の様子や生活史を調べたら、今の時期なら何とか卵にお目にかかれそうだと思いました。そのためにはまず手っ取り早くメスのウスバシロチョウを捕獲する必要が出てきました。ここではウスバシロチョウの産卵と書きましたが、実際には産卵後の卵の様子となります。ガラス水槽越しでは見ているのが精一杯で、撮影する段階までいけなかったのが本当のところです。

この卵の画像は産卵後五日ほど経過した状態で、直接レンズの前に置いて撮影したものです。レンズは50ミリのマクロレンズを使い、ほぼ等倍での撮影になります。



メスのウスバシロチョウを捕まえるため、半世紀以上以前の昆虫学生当時を思い出し本格的な捕虫網を欲しくなりました。しかし、購入しようと思いネットで調べてうなりました。ちょこっと捕まえるにはあまりにも高価だったからです。それならばと言うことで、レースのカーテン地を細工して直径30センチの捕虫網を作りました。張り切って捕虫網をうん十年ぶりに振り回しました。いい年した老人がチョウを追いかける様は、通行人の目を引きます。何人からか「何していますか・・」と言われ、「チョウを捕っているのです」と言ったら笑われましたから・・。

しかし、飛んできて網に入ったのはほとんどがオスの蝶です。メスを求めて飛び交っているのだなとやっと気がつきました。それでも苦労して待ち続け、何とか飛んでいるメスのチョウを5頭捕まえました。

花に飛来したウスバシロチョウ 1 花に飛来したウスバシロチョウ 2
花に飛来したウスバシロチョウ 3 花に飛来したウスバシロチョウ 4

花に留まっている状態ですが、尾部を見ると先端部に突起状のものが見えています。交尾後のメスの尾部には、受胎嚢と呼ばれる薄い袋状のものがついています。この袋、交尾後のメスが他のオスと交尾できないよう様に、オスチョウが分泌物を出して蓋をすると言います。メスチョウにとっては迷惑なことですが、オスの遺伝子を確実に残すというウスバシロチョウ特有の生き様と言えそうです。

下の画像は、指で固定して尾部を拡大接写してみました。恥ずかしそうにして私をにらんでいます。私もこの撮影は今回が初めてのことです。
受胎嚢を持つメスのウスバシロチョウ 1 受胎嚢を持つメスのウスバシロチョウ 2 
尾部の受胎嚢の拡大 1 尾部の受胎嚢の拡大 2


産卵させるために小さな水槽に小枝の切れ端を何本か入れ、食草であるムラサキケマンも入れてみました。その中に捕らえてきた5頭のウスバシロチョウを放しました。水槽に放されたチョウはあちこち動いていましたが、そのうちに小枝に止まるようになりました。

まさかこんなに早く卵を産むとは思っていなかったので、何気なく見ていてびっくりです。小枝に捕まったチョウはあちこち歩いていましたが、産卵時特有の動きをするではありませんか。(枝に捕まり尾部を持ち上げて枝にこすりつけます)そして、見ている前で2個ポロンポロンと産み付けていました。この産卵行動は、庭のカラタチに来るアゲハチョウで見ているのですぐ気がついたのです。

ネット資料で調べると、食草であるムラサキケマンには産卵しません。ムラサキケマンが来年生えるであろうと思われる地面の近く、木の小枝や落ち葉の部分に産卵すると有りました。ですから他のチョウのように食草には産まないことになります。産卵行動のチョウを見つける以外、自然状態で産み付けられたウスバシロチョウの卵を発見することはほとんど無理だと言うことになります。

産み付けられた卵は大きさが1ミリ位あり、色はピンクで形はまんじゅう型です。卵の上部には穴のような部分があり、色が違うように思えます。慌てて50ミリのマクロレンズを使い水槽のガラス越しに撮影しました。ガラス越しと言うことで、少々ピントが甘いのが気になりました。まさかこんなに早く産卵するとは思ってもいなかったので、凄く興奮しながら撮影しました。

3時間後に見たら、何カ所かに合計で10数個以上産卵していました。時間が経つにつれてピンク色から白っぽくなっていき、拡大してみると表面に小さなくぼみが沢山あります。ちょうどゴルフボールを押しつぶした形に見えています。
産卵しているメスのウスバシロチョウ。
産卵後10分経過の様子。 産卵後30分経過の様子。

水槽の小枝を点検したら、かなりの広範囲の場所に合計で130個ぐらいの卵を確認できました。ものすごく嬉しくなった私でした。

最後の画像は、状態の良い部分を切り取ってみました。別の方法で拡大撮影をすれば良かったのですが、準備をするのが大変で今回は出来ませんでした。機会を見て撮影する予定でいます。
5日後の様子 1・・・びっしりと生み付けられています。
5日後の様子 2 5日後の様子 3
5日後の様子 4 切り取り拡大・・・ゴルフボール状で小さな穴が無数にあります。


一週間ほど水槽に入れていたチョウですが、一頭も死なずに元気でいました。水槽から出し、庭に咲いている花の上に置いてみました。すぐさま吸密活動に移ったチョウです。しばらくしたらどこかに飛んでいきました。

いやあ、私に捕まり運の悪かったウスバシロチョウのメス達です。自然状態よりも安全に育て、何とかしてきれいな成虫の誕生を期待したいと思います。
水槽から出して花に留めてみました。
頭隠して何とかのスタイルです。 お腹がすいていたのでしょうか、口吻を花に入れてミツを探していました。
かわいいヒメウラナミジャノメです。よく見ると可憐できれいなのです。 ウスバシロチョウを見ていたら、ひょここりと飛来したヒメウラナミジャノメです。忙しく花の蜜を吸っていました。しばらくぶりに昔の気持ちに帰り、チョウの撮影に集中したのですが、相手は自由に飛び回っているので撮影は大変です。風の止んだ時をねらい、息を止めてシャッターを切ります。


今後の扱いについて・・・

卵の孵化は来年の2月から3月頃と言います。それまでは産み付けられた状態を自然状態に放置し、夏→秋→冬 →そして春を迎えなければなりません。そのための飼育環境作りがこれからの課題です。

来春孵化した幼虫は、食草であるムラサキケマンを求めて徘徊する。そして葉を食べた後は、その近くに潜み姿を隠すと言います。幼虫は三月末頃から急成長しサナギになり、五月初め頃羽化し華麗な姿を見せてくることになります。

楽しみでもあり嬉しい課題が生じましたが、ヒメギフチョウで何年か経験してきているので、その時のノウハウを生かしてトライしたいと思います。それと同時に、ムラサキケマンの種子をまき散らし食草園を作らなくてはなりません。


その後の様子について・・・

可能な限り自然状態で越冬させるために、メッシュのかごに入れて日陰の雨ざらしにしました。生きているのか死んでいるのか分からないのですが、2010年4月頃に見ても変化が見られません。その後、自然状態では孵化している頃になっても卵表面の変化が見られませんでした。

私の思っていた自然状態保存が、産卵したウスバシロチョウの越冬条件に適さなかったものと思われました。無理矢理産卵させても管理状態がこれでは自然破壊になります。完全に失敗したことに反省しています。機会があったら、次回挑戦してみたいものです。言わずもがなのことですが、食草となるムラサキケマンの群生を作ることが先決のようです。