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   釜石港・大型貨物船アジアシンフォニー海へ


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クレーン船により引き上げられた大型貨物船です。

七ヶ月ぶりに海に戻される大型貨物船・・・

3月11日に発生した未曾有の大津波とそれによる原発事故、あれから7カ月を過ぎましたが現地の復旧は依然として進んでいません。岩手県沿岸の方々にとって、大津波による住居の壊滅、沿岸部の生活の基盤になる漁業が壊滅状態になっていることは論を待ちません。

全国各地からの支援と励ましにより日に日に復旧してきているとは言え、以前の生活を取り戻すのは何時になるのか不安要素があまりにもあり過ぎる現状です。いつも書いていますが、国の復興方針と言いますか目に見える具体的な動きが不可欠だと思います。

この内容については、10月20日付けで『釜石市・大型貨物船海に戻る』ダイジェスト版で紹介しましたが、今回は『釜石港・大型貨物船アジアシンフォニー海へ』と題して詳細内容をまとめてみました。


トップの画像は、10月20日七ヶ月ぶりに岸壁から引き上げられ、海に戻すために方向転換をしている様子です。引き上げるために使用されたクレーン船(起重機船)は、寄神建設株式会社所属の4000トン吊『洋翔』が使用されています。


7月17日の様子から・・・

真夏の日射しの中、釜石市港町では「釜石の復興はここから」をスローガンに、尾崎町町内会の皆さんが立ち上げた夏の港まつりです。地域を挙げてのイベントを目の当たりにして、本当の復興はここからだなあと思いました。

道路を隔てた会場の近くには、かつての釜石魚市場があります。この魚市場は、未だに壊滅状態であり復旧の手が入っていません。漁船が接岸する岸壁はコンクリートにひび割れが入り陥没しています。その東の方には、大津波で打ち上げられた何千トンもある貨物船がそのままになっています。

岸壁に出るために壊れた魚市場の建物を通りました。日陰になっている場所には水溜まり、そしてコケが生えてぬるぬるして滑ります。かつての威勢の良い魚市場の姿は残骸しか残っていません。他の地方ではいち早く魚市場の復旧再建がなされ、三陸沿岸で収穫された水産物が水揚げされ賑わい始めています。釜石市はどうなっているのでしょうか、当然のことですが漁業が再開され魚の水揚げがなければ、この地の活性化にはならないと思われます。

復旧が大変で困難なのは釜石市だけではありません。この地で生活してきた人々が、安心して暮らしていける地域の復旧と復興が早急に取り組まれることが緊急の課題だと思います。


道路から見た様子・・・

大津波で岸壁に打ち上げられた大型貨物船は、パナマ船籍の『アジアシンフォニー号(4,724トン)』で3月11日の大津波発生当時、岸壁の向こうにある埠頭で積み荷と降ろしていたと言います。震災後に発刊された記録写真集には大津波襲来直前の釜石埠頭の画像がありますが、積み荷降ろしの作業中の船が係留しているのが写っています。
当時船にはフィリピン人乗組員が17名乗船していましたが、全員無事に救助されています。

岸壁に打ち上げられた大型貨物船を見るのは二回目になりますが、一カ月ほど前に訪れたときとは違い道路周辺の瓦礫等もかなり整備されていました。今回は復興港祭りと言うことでかなりの交通量がありましたが、真夏を思わせる日射しのために道路が完全に乾燥し土埃が舞い上がります。

防潮堤に船首下部が乗り上げ道路の半分を占めています。工事車両である大型ダンプの通行はぎりぎりの様子であり、気をつけないと接触しそうになっています。私も車で側を通り抜けましたが、見上げるような高さと覆い被さる様な威圧感があり、側にいると倒れないのかなと言う恐怖感すら出てきます。

最初に見たときの記録からですが、船体に刻まれた水深レベルによると8m程あります。このレベルを基準にし船体の長さを換算してみると、およそ100m程あり、高さが13m位になりそうです。
船首部分が防潮堤にくい込んだ様子 1・・・道路に半分以上はみ出ている状態。
船首部分が防潮堤にくい込んだ様子 2
船首部分が防潮堤にくい込んだ様子 3
船首部分が防潮堤にくい込んだ様子 4・・・側を通るトラックと比べてください。
岸壁から見た様子・・・

船首部分の様子は岸壁東側から見た様子です。それにしても巨大な船が横倒しにならずにどーんと立っている様子は驚きです。船底部分が背面で平らであるために安定しているように見えるのでしょう。しかし、何の支えもなく津浪で運ばれた状態になっていますので本当は怖いのです。何気なく見ているときに、大地震等があり揺れると横転する可能性だってあるからです。

魚市場側の岸壁に廻ると船尾部方向から見ることが出来ます。本来的には立ち入り禁止(立ち入り禁止や接近禁止のロープが張られていません)のはずですが、私を含めてかなりの近くまで寄って撮影しました。中には船腹部分を叩いている方もありましたが、私はそこまでは近づきませんでした。巨大な舵とスクリュー、その空間を通して遙か彼方に見える釜石大観音を配置してみました。

新聞報道等によりますと、夏休みシーズン中はかなりの人出で賑わった様でした。観光地化したことに地元の方々は複雑な心境で見ていたと言います。撮影している私でも、はたから見れば完全に興味本位の立場であると見られても仕方ありません。
湾口に近い方の岸壁から見た様子。
釜石漁協岸壁から見た様子 1・・・側に立つ人の背丈と比較してください。
釜石漁協岸壁から見た様子 2・・・100mほどの船体です。
釜石漁協岸壁から見た様子 3・・・スクリューの向こうに釜石大観音を入れてみました。


10月20日の様子から・・・

全国各地からの支援と励ましにより日に日に復旧してきているとは言え、以前の生活を取り戻すのは何時になるのか不安要素があまりにもあり過ぎる現状です。いつも書いていますが、国の復興方針と言いますか目に見える具体的な動きが不可欠だと思います。

打ち上げられた貨物船については何回か記事にしましたが、釜石市港町岸壁に打ち上げられた大型貨物船の撤去作業が10月20日未明から行われました。本来は18日の予定であったのですが、天候等の条件が悪く20日に延期されていました。海に戻す作業を見て撮影したいなと思いましたが、作業等の予定が一切分かりません。そんなこともあり、家を出たのが5:40頃でした。

現場に着いたのは7:30頃でしたが、取材の方々や私と同じ目的の方、地元の方々等々かなりの人出がありました。引き上げる頃になると、上空には取材の飛行機やヘリが飛来し賑わっていました。


7:30〜10:00頃までの作業の様子を10月20日づけのダイジェスト版で紹介しましたが、ここではダイジェスト版を元にして少し詳しくまとめてみました。


7:48 引き上げ準備・・・

大型のクレーン船を見たのは初めてですが、作業現場に着いたときは船を吊すワイヤー(両側に16本、合計32本)がたるんでいましたが、車から降りた時はピーンと張っていました。慌ててカメラを持って近くまで寄ってみました。

作業現場はタグボートのエンジン音が響き、クレーンの動き等は一切分かりません。後で気がつきましたが、4,700トンもの船を引き上げるのですから、その動きは微々たるものだったと思われます。引き上げ作業を容易にするために、可能な限り燃料や積み荷、鉄骨材等を降ろして軽くしたと報じられていました。

たまたまでしたが、道路側から引き上げる様子を撮影していた時のことでした。私と同年代の方に声を掛けられ、大津波襲来時のお話をお聞きしました。その方は、貨物船が打ち上げられた岸壁の対岸にお住まいの方で、自分の家も津波に流されてしまったとのことでした。夢中になって津波襲来の様子を撮影していたら、あれあれと言う間に家の中に海水が流れ込み胸まで漬かってしまったと言います。何とか逃げたよと笑っていましたが、本当に危機一髪だったようです。その時見た湾内の様子ですが、この大型貨物船が木の葉のように津波に流されていたと言います。

ここでは、クレーン船と引き上げられる船の全体の様子、32本のワイヤーで吊される船の様子、船首部分が防潮堤にくい込んでいる様子を紹介します。

引き上げ準備 1
引き上げ準備 2
引き上げ準備 3
引き上げ準備 4・・・クレーンの最上部、無数のワイヤが張られています。
引き上げ準備 5・・・ワイヤーに吊された二本の鋼管(?)から船体へワイヤーが伸びます。
引き上げ準備 6・・・船体に溶接されたワイヤー取り付け部分、片側に16ヵ所あります。
引き上げ準備 7・・・がっちりと防潮堤に食い込んだ船首下部。
引き上げ準備 8・・・道路側から見た様子、車は取材の方の車ですが手前には瓦礫が散在していました。

8:57 引き上げる・・・

貨物船を引き上げるクレーンアーム、そこから二系統のワイヤーが降ろされ二基の鋼管を釣り下げます。鋼管からは四系統のワイヤーが張られ左右16本、全体で32本のワイヤーで引き上げられます。クレーンのワイヤーが微々たる動きで吊り上げていますが、はっきりとしないのは最初の場面だけでした。

クレーンの台座付近に『洋翔 YOSHO』と書かれてありますが、この文字の沈み具合で引き上げているのが分かります。YOSHOの文字が沈みかけた頃、ゆらりと船底が岸壁から離れました。ふわりと浮き上がった瞬間、見ていた人々から「おーっ、上がったあ・・」と一斉に歓声があがりました。

※クレーン船アームの高さを船体喫水(8m)から換算すると、およそ97mほどになりますし、貨物船の前部クレーン
  の先端で25mほどになりました。それにしても巨大なアームに驚きました。何しろ釜石の街中からアームの先端が
  見えていましたから・・・。

最終的には、現場で作業をしている方の身長の倍ぐらいの高さまで引き上げられましたので、高さにすると4m位かなと思われます。

引き上げる 1・・・クレーン船アームと釣り下げられたワイヤー。
引き上げる 2・・・クレーン船のブリッジ、上には作業を見守る方々が見えていました。側にぴたりとタグボートが寄り添っています。
引き上げる 3・・・まだ貨物船の荷重がかからないのか船の文字が分かります。
引き上げる 4・・・クレーン船に貨物船の荷重がかかり沈み込んでいきます。
引き上げる 5・・・ふわりと浮き上がりました。
引き上げる 6・・・ゆっくりと上昇していくのが分かります。
引き上げる 7・・・クレーン船が後退し方向転換が始まります。
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