セイルドリルに戻る

ウチノメ屋敷 レンズの目 自然の表情 暮らしの表情 ウチノメアーカイブス
岩手の鍾乳洞 ほっづぎある記 心のオアシス  

location:uchinome.jpトップ>暮らしの表情>催しアラカルト海フェスタいわて・日本丸寄港セイルドリル>その2

 サイトマップ


◎ヤードの移動・・・
日本丸は、主として帆げたが横に向いております。このタイプは風に向かって行くことが出来ます。但し風の方向から概ね60度から70度ぐらいの方向にしか行くことが出来ません。何故ならば、帆げたが前後ろにきちんと向くことが出来ない。帆げたを一杯に開いたところで今言った角度、船首に向けて60〜70度ぐらいまでしか一杯に開かない特性によります。

風に向かって曲がって行けることを切り上がりと言いますが、日本丸では60〜70度が一杯一杯なのです。洋上では行きたい方向、風の方向によってヤードの角度を決めるわけですが、現在は岸壁に係留しております都合上、適切に風の向きに合わせることが出来ません。

キャプテンからは右側に三ポイント半、約40度ちょっとですが帆げたを開きなさいと言うオーダーが出されました。帆げたヤードは船首に対して直角ですが、これが一斉に動き始めます。この操作は全部実習生が準備を行います。号令いっか帆げたが一斉に動き出す状況をご覧下さい。

これもそれぞれの角度が、各帆げたがまちまちでは帆に対して風の効率が十分ではありません。したがってヤードを開いた状態でも下から見て一直線になるように向きを整えるわけです。この操作は、風の向きに合わせて船を行きたい方向に進めるために行う操作です。


ヤードの移動については今回学習したことでした。洋上ならば理解できますが、岸壁に係留中でも訓練として行うと言います。後ろから風を受けるようになるので、係留中であっても船が岸壁にぶつかる方向に移動します。そのためですが、大型のタグボートが二隻で海側に引いていました。

実習生は一斉に「せーの、わっしょい・・」と言う掛け声を上げてロープを引っ張っています。見ている内に重たいヤードが岸壁側に寄ってきました。

ヤードを風向きに合わせる 1 ヤードを風向きに合わせる 2
ヤードを風向きに合わせる 3 ヤードを風向きに合わせる 4・・・ヤードが岸壁よりになりました。


現在乗船しております実習生は、この7月1日に乗船してきたばかりの実習生です。これらの実習生は学校在籍中帆船での実習を経験したことが御座いません。また学校の授業の中でも、高い煙突などに登る授業は御座いません。したがって、7月1日に乗船して来たならばマスト登りの訓練を始めます。

三日程度の期間をかけて、マストの一番高いところに登ってタッチしてきます。ヤードの一番先まで行って、両手を離す。こんな登る訓練を行い、慣れてきたところでデッキ上にあるロープの名前を覚えます。ロープの数は約300種類あり、一本一本名前が違い役目も違います。これらのロープの役目と名前を知らない限り、キャプテンから各マスト担当の航海士、あるいは乗組員が指示を出しても動くことが出来ません。従いまして、これら300本のロープの名を覚えるつらいことが御座います。まだまだ完全に慣れきっていなし未熟な実習生で御座いますが、航海毎に、あるいは日を追う毎に順応して動きが良くなっていきます。

300本のロープの名と用途を熟知することが基本と言われましたが、実際は物凄く大変だと思われます。しかし、帆船上で生活するための命を守る基本中の基本です。まだ、乗船してから20日しか経過していないと言いますが見事なものでした。
ロープの操作をする実習生。 甲板部乗組員の指導で操作する実習生。


◎セイルの展帆・・・
いよいよセイルを展帆する作業に移ります。セイルを開くとどんな形になるのか、帆は大きく分けて四角い形のセイルと三角の形のセイルに分けることが出来ます。それぞれの帆げたの長さが違うように、帆の大きさも変わってきます。一番大きなセイルは、各マストの一番下の長いヤード・ロアヤードに付いているフォースというセイルです。一番小さいセイルは各マストの一番てっぺんにあるロイヤルに付いているセイルです。一番高いセイルは小さなセイルで、非常に取り扱いやすいセイルになっています。

セイルの面積はどれ位あるのか。36枚のセイル全てを合わせますと2760平方メートル、畳で換算すると約1670枚。これから行いますセイルを全部拡げますと、学校にある25mプール25個分の帆を拡げることが出来ます。

まず最初は、船首方向にあります三角の帆、船尾方向にある三角の帆を展帆していきます。二枚のセイルが同時に開かれます。バウスプリット、一番先に突き出たところにある帆が一枚ゆっくりと上がっている様子がお分かりかと思います。


私の居た場所からは船尾方向からの展帆の様子は見えません。三角の帆がするすると上がりました。
船首のジガーマストの三角帆の展帆 1・・・一番最初の展帆。 船首のジガーマストの三角帆の展帆 2・・・二枚目が拡がります。

次は各マストにあります四角い形の帆が張られていくところです。まず横の帆、揚げる順番は下から順番に揚げていきます。ただ一番低い大きな帆、ロアヤードにありますフォース、これは最後になります。何故ならば、このセイルを揚げると見通しが悪くなります。

これから拡げる帆は、下から二本目のヤードに付いている帆を拡げることになります。帆を拡げる作業の原理は非常に単純です。真下のヤードに導かれてデッキ上に降りてきているシートと呼ばれる呼ばれるロープを引っ張ることによって、セイルの両肩の引っ張りをする作業です。フォア・メイン・ミズンの順番に下から二番目の四角いセイルが張られているのがお分かりかと思います。横のセイル、各マストに付いているヤードのセイルは、下端を引っ張り展帆することが出来ます。

せーの、わっしょいの掛け声と共に、じわりじわりと帆が拡げられていきます。
下から二番目の帆の展帆 1 下から二番目の帆の展帆 2 下から二番目の帆の展帆 3

さて次は、その上の帆げたに付いているセイルを張ることになります。どうやって張るのでしょうか、ヤードの間隔が狭いのです。これは帆げた自体を引き上げていきます。ヤード自体を持ち上げる作業で、ジガーマストでは台形の形をした帆(スパンカー)を張っていきます。

この帆げたの重さが約2トンです。風をはらむとより一層重たくなります。この作業を行うためには全員が歩きながら引っ張り上げる作業になります。各マストは二十数名の実習生、4〜5名の乗組員、そして1〜2名のマストオフィサーでそれぞれの帆げたを揚げることになります。

ウインチか何かあればすーっと上がっていくのでしょうが、日本丸ではウインチはありません。人の力、実習生の力で揚げます。日本丸の力は乗組員の力なのかもしれません。燃料は実習生の食事なのかもしれません。帆船では人が力を合わせて協働作業をして行うことを培っていっております。ゆっくりと、下から三本目のヤードが上がりセイルが張られていく様子が分かると思います。


帆をたたんだ状態の帆船には、マストに直角に帆げた・ヤードが配置されています。均等間隔ではなく、下から二番目三番目、四番目五番目のヤードが接近しています。それぞれの組み合わせの上にあるヤードが引っ張り上げられることで、帆が拡げられる事になります。

下から三番目の帆の展帆 1・・・ヤードを持ち上げて帆を拡げます。 下から三番目の帆の展帆 2 下から三番目の帆の展帆 3

次は四本目のロアーゲルンに付いているロアーゲルンセイルを展帆することになります。セイルの下端を引っ張り降ろすことでセイルが展帆されます。ここまで来ると帆自体が小さくなるのでするすると拡がります。
下から四番目の帆の展帆 1・・・帆を下に引っ張ります。 下から四番目の帆の展帆 2・・・帆が下に引かれて拡がります。 下から四番目の帆の展帆 3

さて次はフォア・メイン・ミズンマストの5枚目のセイル、これもヤードがくっついた状態ですからヤード自体を揚げることになります。重さは見て分かるように小さなヤードですから約1トンの重さです。すーっと上がっていくと思います。

下から五番目の帆の展帆 1・・・ヤードを持ち上げて拡げます。 下から五番目の帆の展帆 2 下から五番目の帆の展帆 3

さて残りは一番上のセイルです。これは、セイル自体とヤード自体を持ち上げる二つの作業を合わせたことでセイルを開くことになります。一番高いロイヤルセイルは、シートと呼ばれるロープを引っ張ってセイルの両下端をアッパーゲルンヤードまで引き下ろします。あとはしっかりと帆を四角い形に張り上げるため、帆のヤードを持ち上げてやります。

各マストにある四角い帆、これは一番下のフォースを残して張ることが出来ました。一番下のフォースを張ると、非常に大きなセイルなので見通しがきかなくなります。したがってそれを残して残り三枚、33枚のセイルを張り終えました。

一番上の帆・ロイヤルセイル 1 一番上の帆・ロイヤルセイル 2・・・ヤードが揚げられ、帆が下に引かれます。 一番上の帆・ロイヤルセイル 3・・・三本のマストの帆が下を残して全部拡がりました。

さて、最後三枚のセイル、大きなセイルが開いております。それぞれ3本のロアヤードに付いているフォース、これの広さは一枚だけで185平方メートル、畳に換算して約110畳分の広さを誇るセイルがいま拡がっていきます。作業を開始して約1時間、36枚のセイルをようやく拡げることが出来ました。

フォースと呼ばれる一番大きな帆は簡単には拡がりません。ヤード付近で甲板部乗組員が確認しながら作業をしていました。
一番下の帆 1・・・フォアマストの様子 一番下の帆 2・・・メインマストの様子。 一番下の帆 3・・・メインマストの様子ですが、簡単には拡がりません。

総帆展帆(フルセイル)された状態、それにしてもきれいで見とれてしまいます。

この状態でしばらく皆さんにご覧頂く予定で御座います。作業を行いました実習生が一段落致しますと、岸壁に揃ってご見学された皆さんにご挨拶をするために整列します。36枚のセイルを全て張ると船が走り出しますので、そうなると大変なことになりますので、船の沖側にはタグボートが控えて前に進まないように引っ張っています。

しばらく日本丸はこの状態・フルセイルを14:40まで、その後再び帆をたたむ訓練を再開致します。たたむ訓練は帆を張る訓練の真逆、デッキ上のロープを引いて帆を絞り込んでいきます。そしてヤードに縛り付けていきます。

一列になって敬礼をしていますが、右端の航海士は女性の方でした。岸壁にいる私にも、きびきびとした号令が聞こえていました。

セイルドリルが終わり見ている私達に挨拶がありました。 メイン、フォアマストの裏側からの様子、少しですがかぜをうけていますね。 フルセイルの日本丸、心なしか曇天なので帆の色が気になりました。


セイルドリルを終え観衆に挨拶をした後、実習生は揃って岸壁に降りてきます。海王丸との時もそうでしたが、船首の女神像の場所で決まって記念撮影になります。よく見ると本当に若い20代の若者達です。目の前にいた方の腰に安全ベルトがついています。「使ったの?・・」とお聞きしたら、笑いながら「はい」と答えてくれました。私が作業中の様子を見た限り、使用している方が見えませんでした。

一番高い場所、 ロイヤルヤード付近での作業では使っていたのかもしれません。しかし、安全ベルトを着用すると固定した場所での作業は良いのですが、場所を移動するときは不便になりその都度脱着しなければなりません。「怖くいないの?・・」とお聞きしたら、無言の笑顔で返事を返されました。私の経験からすると、覚悟をして慎重に高所に登り作業しますが、ベルトを着用すると両手が使えますので意外と恐怖感がありません。怖いなと思ったら20mの鉄塔には登れませんから・・。

ほっづぎ我が家は、帆をたたむ作業を見ることなしに現場を離れて帰路につきました。それにしてもすごい車と人出です。悔やまれるのは曇り空の冴えない空模様でした。

船首の女神像の下で記念撮影する実習生の皆さん。 腰に付けた安全ベルト。
                  セイルドリルの先頭に戻る →