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        羽化直後のヒオドシチョウ


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ヘリコプターのような感じのするチョウの待機姿勢です。一番リラックスした状態でしょうか。

六月末の朝でしたが、何気なく裏のブドウ棚を見たときの事です。ブドウの葉に一頭のチョウがとまっていました。チョウの季節だなあと思いつつ足元の地面を見たらびっくりです。何と地面には数頭のチョウがとまっており、羽を広げているもの、閉じているものとが見られました。

慌てて家に戻りマクロレンズを使用しての接写に挑戦です。チョウの撮影はしばらくぶりのことでもあり、三脚を使用し思いっきり接近しての撮影です。望遠マクロですのでそれほどは近づけませんが、風もなかったこととチョウが飛び立たなかった事もあり、しばらくぶりにマクロ撮影を楽しみました。

不思議に思ったのは、10センチ程まで接近しても逃げなかったことです。チョウはタテハチョウ科のヒオドシチョウですが、ふだんは活発すぎて超接近なんて出来ないからです。


ヒオドシチョウ・・・

ナマケモノという動物がいるが、ナマケチョウという名をつけるとしたらこの種であろう。六月頃羽化した蝶はしばらく活動しているが、七月にはどこかに隠れて姿を消してしまう。暑い夏を寝て過ごし、涼しい秋すら寝て過ごし、寒い冬もまた寝て過ごす。

冬を成虫で過ごす種はタテハ類に多く、夏を寝て過ごして涼しい秋に活動するのはヒョウモンの類に見られるが、夏から秋まで寝てしまうのはこの蝶とテングチョウぐらいであろう。翌春元気に活動するが、その頃にはぼろぼろになっている。幼虫の植樹はエノキやニレの仲間とヤナギ類である。(※野外ハンドブック 2 蝶 より)



地面にとまるヒオドシチョウ 1 地面にとまるヒオドシチョウ・・・

羽を閉じたり開いたりの状態で、かなりの数が見られました。普通ですと、人が近寄っただけでパーッと飛び立ち側までカメラで近寄ることは無理になります。

使用したマクロレンズは望遠タイプあり、最初は遠くから引き寄せて撮影です。飛び立たないのを幸いに、どんどん接近し10センチぐらいまで寄れました。
地面にとまるヒオドシチョウ 2 地面にとまるヒオドシチョウ 3
地面にとまるヒオドシチョウ 4 地面にとまるヒオドシチョウ 5

ブドウの葉にとまる 1 ブドウの葉にとまるヒオドシチョウ・・・

葉の上のチョウ、ほとんど動かないでじっとしていました。それではということで、少しずつ接近し前面からの拡大撮影を試みました。

望遠マクロレンズは、接近の仕方によっては実際の大きさの半分まで記録できます。当然のことですが、がっちりと三脚を固定しシャッターも慎重に押さないとぶれが生じます。もちろん絞り込みも大切ですが、ストロボを使用しない自然光線撮影でした。そのためですが、ピントの合う奥行きが限られてしまいました。
ブドウの葉にとまる 2 上の状態から羽を開いた状態になります。赤い羽根の中の黒い斑点、縁取りが黒と紫の鮮やかな彩りになります。

ヒオドシというのは、赤く染めた革や糸で編んだ鎧のことで、このチョウの色あいと斑紋をそれに見立てての名である・・・と図鑑に書かれてあります。

下段の画像は、正面から最接近したときの様子になります。ピントの合っている面が少ないのですが、このようなチョウの表情を撮影できて嬉しくなりました。

当然ですが、チョウの方からも私(カメラ)が見えていることを考えると愉快になります。
ブドウの葉にとまる 3 ブドウの葉にとまる 4・・・始めた撮影したチョウの顔。
ブドウの葉にとまる 5 羽を広げてゆったりとした様子です。じっと見ていると、大型ヘリが翼を畳んで待機している姿に似てきます。

ここまで羽を折り曲げると、飛び立つ瞬間は少し遅れそうです。いつもこの状態に羽を広げてはいませんので、チョウとしては本当にリラックスした状態だと思います。
ブドウの葉にとまる 6 さらに接近した様子です。二本の触覚をピーンと立てて、一瞬で飛び立てるはずですが動きません。もちろん触れば一瞬に飛び立ち逃げられます。
ブドウの葉にとまる 7・・・真横から。 真横から見た様子・・・

頭の上から二本の触覚がピーンと伸び、毛だらけの頭部と目が分かります。昆虫の目は複眼ですから、拡大すると私たちの思う目とは構造が違ってきます。

口吻は折りたたまれて分かりません。それにしても、面の模様とは違い羽の裏側は地味な模様です。羽を閉じた状態で木にとまられると、区別がつかなくなります。

羽化未完成のチョウ 1・・・頭の先に白い殻がついています。 羽化未完成のチョウ 2・・・頭の殻を取りましたが触角の殻が着いたままです。
終わりに・・・

ヒオドシチョウを最初に発見したのは朝の八時過ぎでした。大量のチョウが地面にいるのが不思議になりましたが、図鑑で調べたら理由は簡単なことでした。

ヒオドシチョウ幼虫の食草(植樹)はエノキの葉です。オオムラサキやゴマダラチョウの飼育を願って、かなり以前から家の周りにエノキを植えていました。ゴマダラチョウは卵を産み付け、幼虫は越冬し翌春サナギになり羽化しますが、まさかヒオドシチョウまでとは思っても見ませんでした。

エノキから10メートルほど離れた母家の軒下に、大量のサナギの剥け殻がぶら下がっているのを見て納得です。このページのタイトルを「羽化直後のヒオドシチョウ」としたのは、上の二枚の画像から決めたことです。

羽化直後のチョウは形こそ成虫ですが、身体の組織が固まらず素早く動くまでにはかなりの時間がかかります。私が撮影したのは丁度身体の組織固めの最中であり、逃げたくても瞬間的行動が取れない場面でした。太陽の光と熱で身体を成虫の状態にする一番弱くて無防備の瞬間でした。


九時半頃でしたが、その後のチョウの様子を見に出たときのことです。近づいただけでパーッと逃げられましたが、地面の上で動いているヒオドシチョウを発見しました。少し動いていたので、もしかしてアリに喰われたのかと思いよく見たら、あれれ、これは羽化未完成のチョウでした。羽はきれいにありますが、頭に白いものが着いています、

取り上げて見てびっくりです。白いものはサナギの時の頭の部分の殻であり、羽化の時にその部分だけが取れないままになっていました。これでは成虫にはなれないので、静かに殻を取り払ってみました。頭は出たものの、触角の部分にまだ白い殻が着いたままですし、肝心の口吻が二本に分かれてkます。これでは吸密活動は出来ませんので、やがては死ぬしかありません。

チョウの成長を見ていると、卵から孵化し幼虫になり、食草を食べて大きくなり何度か脱皮をします。その後、幼虫がサナギになり、サナギから羽化してやっといつも見ているきれいなチョウになります。その段階の一つでも不十分であれば、当然ですが死んでしまいます。

我が子の誕生に際して、赤ちゃんが五体満足に生まれることを祈る親の気持ち、昆虫を含めて生きている生物も同じです。生命の神秘とは名言であり、生まれ出る新しい個体が親と同じになるとは分からないものです。ちょっと難しい話しになりましたが、ヒオドシチョウの姿を見てそんなことを感じてしまいました。