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20:50頃サイトギの火を叩く・・・

いよいよ今日のクライマックスの瞬間です。サイトギの火(燃える井桁)を4m位ある細長い棒で突き、上から叩く儀式が始まりました。

燃え上がるサイトギの北側には神官と主催者の方、その左側にはホラ貝を手にした保存会の方が立っています。十名の男衆はサイトギの周りに位置し、細長い木の棒を上に立てて合図を待ちます。「ボーッ」と言うホラ貝の合図と共に、手にした木の棒を井桁の火に差し込み動かしますが簡単には動きません。

長い 木の棒で上から叩いたり、差し込んで持ち上げたりする度に火勢が大きくなり、煙と火の粉が周りの杉の木よりも高く舞い上がります。火勢の変化と共に炎の姿が刻々と変化し様々な様相を見せてくれます。その度に思わず「わーっきれいだー」と、私や周囲の方からの歓声を聞きながら夢中で撮影していました。

側におられた年配の女性が、「蛍の光みたいできれいですね、こんなに蛍は居ませんよね・・」話しかけられました。私も夢中になりサイトギの炎と火の粉を撮影していたのですが、「折爪岳周辺にヒメホタルの群生地がありますよ」と言ったら、側におられた地元の男性も「沢山居るよー・・」と叫んでいました。

ホラ貝の合図が何回かあり、その都度火を叩き井桁を突きますが崩れることがありませんでした。私が見た感じでは夕方とは違い、ほとんど風が無くなり、真っ直ぐ上に火の粉が上がっていったと思いました。もちろん見る角度によって違うとは思いますが・・。


燃えるサイトギの周囲に集まる男衆。 これから長い木の棒を使い、燃えているサイトギを突いたり叩いたりする儀式が始まります。画面中央左には神官と主催者の方、その後ろにはほら貝を持った方が立っています。

下の左画像は、燃え上がるサイトギをストロボを使用して撮影したものであり、右画像はサイトギの光を基準に撮影したものです。

縦位置の画像は、撮影した数多くのコマから、偶然に造られた造形美と言いますか、炎と火の粉の見せる様子を構成してみました。
サイトギの火の拡大です。 いよいよサイトギを叩き始めました。

サイトギの火 1 サイトギの火 2・・・二番目のお気に入り画像で、炎が座っている鳥、その上に更に大きな火の粉ので造られた鳥の頭のようにも見ます。
サイトギの火 3・・・炎の上に立っている鳥のようにも見えます。 サイトギの火 4・・・ゆらゆらと昇る龍神でしょうか。
サイトギの火 5・・・一番のお気に入りです。この中に神様を見つけました。

子どもの頃に学習したことは、人間は自然界にある火を手に入れ利用することで、動物から人間として進歩発展してきました。人間の歴史の中でも、自然界で見られる火は恐れと畏怖の念、また、人々の心に明るさと暖かさをもたらす唯一のものとして崇められてきました。

炎と火の粉を見ての感じ方は人それぞれです。数多く撮影した画像の中での一番のお気に入りです。私の偏見だろうと言われそうですが、立ち上る火の粉の中に大きな目玉と長い鼻を見つけました。

偶然の産物とは言え、立ち昇る火の粉の中に神様を見つけた想いになり嬉しくなりました。あえて言うならば天狗の顔でしょうか・・。


下の左画像は、右から主催者代表の方、御託宣を降す神官、そして、ほら貝を吹いてサイトギを叩く合図を送る方、高く舞い上がる火の粉を見つめる目線の先、想いは同じだと思われます。

最後の画像は終了間近のサイトギの様子です。崩れそうで崩れなかったのですが、どちらかと言えば北側に傾いていました。

炎と火の粉を見上げる神官正と主催者の方。 最後のサイトギの様子です。


男衆最後の〆・・・

サイトギ叩きが終わり御託宣が降りる前のことでしたが、男衆十人の皆さんが本殿前で記念撮影をしていました。私は横の方から慌てて撮影しましたが、皆さんの目線は最初に声を掛けた方に向いています。残念ですが私の方へのカメラ目線は無理でした。

その後ですが、今年の締めを「三本締め」で行い無事終了しました。気温はマイナス1度位ですから、例年よりは暖かかったと思われます。しかし、周囲にいる私たちは完全装備の冬支度です。本当にご苦労様でしたし、これからの生活に幸多かれと願う気持ちで一杯です。
10人の男衆の記念撮影。 皆さんで三本締めを行い終了です。で



21:05頃平成22年の御託宣・・・

賑やかでも厳かなサイトギの火叩きが終わり、後は、神官から降される御託宣の瞬間を皆さんが緊張の面持ちで待っています。本殿左側の戸が開けられ、最初に主催者が挨拶された後、厳かな表情で神官が腰をかがめた姿勢で立たれました。この瞬間を聞き逃さないように、一瞬ですがシーンとなりました。私も一語も聞き逃さないようにレコーダーを構えて待ちました。

「おこもりの崩れ、御焚き上げの火の粉、また、風向きによりまして、平成22年は豊作で御座りまする・・」。

その瞬間ですが、「わーっ」と言う歓声が一斉にあがりました。撮影しながら自分もそうなって欲しいと願う気持ちで一杯でした。

岩手県北地区では、「やませ」と言う冷たい風の影響で冷害になりやすいことから、地域の皆さんの願いが強いはずです。神官の御託宣の後、主催者の方が報道関係の方からインタビューを受けていました。「豊作の御託宣は5・6年ぶりだと思いますよ・・」、そんな応答が聞こえてきました。地域の皆さんにとっても素晴らしい朗報だと思いました。


主催者の方から終わりの挨拶がありました。 終了の挨拶をする主催者。
厳かな声で今年は豊作に御座りますると告げる神官。 厳かに降る御託宣・・・

「おこもりの崩れ、御焚き上げの火の粉、また、風向きによりまして、平成22年は豊作で御座りまする・・」。

私が見た感じとして、「おこもり」ほとんど崩れていませんし、火の粉の流れる方向は「真上」の様にも見えました。
資料によると、火の粉が参道側に流れると「豊作」、神社側に流れると「凶作」と言い伝えられているそうです。
神社入り口柱に結わえられた腰蓑。 神社正面の柱には、裸参りで男衆が着用した「腰蓑」巻きつられてあります。末社参拝の最後で出た指示では、自分のものを間違わないようにとありましたので、いずれは取り外して持ち帰るのでしょう。

奥の方では、取材の方々が主催者へ質問等をしていましたが、私はこの後現場を立ち去り家路につきました。後から気がつきましたが、現場に居れば色々なお話が聞けたのかも知れません。


最後に思ったこと・・・

二戸市似鳥地区までは、家からおよそ140km程あります。今日は290km程のドライブになりましたが、地域に伝わる伝統行事の奥の深さを感じてきました。

私たちの食生活を支える米を含めた作物の実り具合は、その地域における日照時間と気温の累積で決まります。資料等によりますと、サイトギの儀式はここ似鳥地区で四、五百年は続いているが、名前の由来や行事の正確な起源はわからないといいます(二戸市教委による)。農業技術の進歩した現在でも、冷害をもたらす「やませ」の自然現象は深刻な問題でもあります。

気象現象の予報等が出来なかった昔、当時の人達の日常的な経験の積み重ねから生まれた占い行事であると思われます。舞い上がる火の粉が南に流れる(現場では北風)と、夏に冷害をもたらす「やませ」が吹かずに豊作、神社側に流れる(現場では南風)と「やませ」が吹いて凶作になる。このことは、その時期の季節風の吹き方から夏の風向きを暗示させます。

また、「おこもり」が崩れたり虫が付いたりすると凶作になる。これも、暖冬の時は冷たい夏になると言うことを暗示させます。また、別の資料によりますと、火の粉が地面を這えば稲が倒れ、サイトギの火付きが悪ければ雨が多い・・、と言った御託宣も降りると言います。


1月15日の新聞記事にありましたが、文化審議会(西原鈴子会長)は、玉井日出夫文化庁長官に二戸市似鳥の「似鳥のサイトギ」を「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に選択するよう答申した。

市無形民俗文化財に指定されているサイトギは、井桁に組んだ薪を燃やし、火の粉が舞う方向などでその年の天候と作柄を占う年占(としうら)行事。(※新聞記事から)


私の大好きな黒森神楽(宮古市)と鵜鳥神楽(普代村)ですが、答申を受けて記録を作成編集された分厚い資料集を入手することが出来ました。関係された方からお聞きしましたが、国の重要無形民俗文化財の指定を受けるまでに十年近く経過したと言います。

現場に居られた二戸市観光課の方からお聞きしたことですが、答申を受けたので今年からがっちり記録をとっています。正式に指定になると、その内容を忠実に記録を起こして保存しなければならなくなるし、一切の変化や変更がこれから出来なくなるので、これも良し悪しが生じてきます。

お聞きしていて、郷土芸能や伝統行事の保存は大変だなあと改めて思い知らされましたが、生活の便利さに併せてどんどん失われていく古来からの伝統行事を記録保存し、これからの人達に伝えていくことが今に生きる私たちに課せられた課題(責務)であると思います。是非、無形の民俗文化財に選ばれて指定を受け、後世まで伝えられるよう願いたいものです。

※お断り・・・今回初めて訪れて撮影した、二戸市・似鳥のサイトギです。手元に一切の資料等がありませんので、ネッ
  ト検索で資料収集をし、それをもとに撮影した画像を見ながら記事を作成しました。思い違いや間違い等があると
  思われますので、あらかじめお断りをしておきます。

  可能であれば、来年訪れて確かなものにしたいなと思います。

※最後の画像は、今回の最高のお気に入りです。色々な想いを込めて感想を書いてみました。


手塚治虫のライフワーク、火の鳥です。 手塚治虫のライフワーク「火の鳥」に出てくる、炎の中から生まれる不死鳥「火の鳥」と、その上にある大きな鳥の頭状の火の粉です。

あえて例えるならば、鳥に似ている「似鳥」と表現したら不謹慎でしょうか・・。
最高のお気に入り、偶然のなせる造形美の天狗の顔です。 火の粉の中で見つけた天狗の顔・・。最高のお気に入り画像です。
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